
人間、食欲・性欲といった生理的欲求は強力ですが、負けず劣らず強力なのが、愛情の欲求です。人間が他の動物と違うのは言葉をつかって家庭や職場で社会生活を営んでいるということです。だれでも他人に好かれたい、受け入れられたいと思っています。そうでなければ社会生活が成り立ちません。だから、他人から拒絶されたい、嫌われたい、という人はいません。
ある人の言動は周囲の人の言動による反応という形でフィードバックを受け取ります。そのフィードバックが肯定的であれば、心理学用語では「承認された」と言います。逆に否定的であれば、「承認されなかった」と表現するわけです。
心理学用語の承認は、般的な社会通念としての「承認」とは若干開きがあります。一言で言うと、相手の感情を肯定するすべての言葉や行為が承認です。言葉としての承認は以下のようなものを言います。
<言葉としての承認>
①賞賛
素晴らしいです。
さすがは鈴木君だな。
達筆だね。
②同意
その通りだ。
大賛成だよ。
同感だ。
③お礼や感謝
ありがとう。
あなたのお陰です。
お世話になりました。
④謝罪
申し訳ありません。
それは悪いことをしました。
私の責任です。
⑤期待/信頼の表示
任せられるのはあなたしかいません。
あなたと見込んでお願いしたい。
期待していますよ。
⑥激励
その調子だ。がんばれ。
君ならできる。
君のやっていることは間違っていない。
⑦第三者承認の伝達
部長が君の事をほめてたよ。
君の実力はみんな認めている。
Aさんがよろしくと言っていたよ。
⑧感情の伝達
君が来ないと寂しいな。
お話をうかがって力づけられました。
あなたの一言で雰囲気が一転良くなりました。
⑨共感
お気持ちはわかります。
そう思うのも無理はないですね。
今回は残念でしたね。
⑩存在の認知
おや、髪切ったんですね。
おや、今日のネクタイは青ですね。
あ、鹿児島の方ですか。
⑪行動の認知
この仕事は君がやったんだな。
この表をつくったのはあなたですね。
今日は3社訪問したんだね。
といったところでしょうか。いろいろな整理のしかたが可能だと思います。
一方行為としての承認もあります。こちらは単独に使われることもありますが、多くは言葉と併用されます。視覚・聴覚情報は言語情報よりもむしろ強力なインパクトがあるので、併用されると効果的です。
<行為としての承認>
①笑顔
②挨拶
③あいづち/うなずき
④おうむ返し
⑤アイコンタクト
⑥拍手
⑦握手
⑧傾聴
⑨関心を示す(質問する)
⑩金品を贈る
⑪相手の優越感を刺激する(失敗談を話す、バカを演じる、わざと負けるetc.)
結局、承認とは相手を受け入れる好意の表現です。愛情表現は必ず承認という形を取ります。
承認は承認を呼ぶ他人を承認すると、承認は必ず返って来ます。承認は承認を呼ぶのです。
「Aさん、今回の仕事ぶりは本当に素晴らしかったです」
とほめられたら、Aさんは、
「ありがとうございます」
とお礼を述べたあと、(感謝も承認です)
「いや、Bさんも大健闘でしたよ」
と相手を承認し返し、お互いをたたえ合うものです。承認という幸福感は与えてもらったら、それを与えてくれた人に返すし、他の人にも分かち与えようとするのです。こうして承認は承認を呼ぶわけです。
つまり、承認はAさんからBさん、BさんからCさんと増殖し波及するものなのです。
「承認」は内的コントロールに働きかける人間、かねてからやろうと思っていたことを人から指図されるととたんにやる気を失くすものです。
たとえば、学生時代そろそろ勉強にとりかかろうとしていたのに、「勉強しなさい」といわれ、とたんにやる気をなくした、というのは誰でも経験があることと思います。
人間みんな違う個性を持っていて、人に命じられるままのでくの棒ではないわけです。本来は内的コントロールで、動きたいのです。だからたとえ批判・叱責されなくても、他人からとやかく言われて動くことは本来そう楽しいことではないのです。
「承認」は愛情表現ですから、内的コントロールに働きかけます。内的コントロールに働きかけられば、誰でも例外なく相手はハッピーになり、
「それなら一肌脱いでやろう」
とやる気を出します。ですから、相手に指図するときは、まず承認してから言うとうまく行きます。意見が対立した時も、承認を枕詞として前置きすると、うまく説得できます。こんな感じです。
「気持ちはわかるけど、それじゃまずいんじゃないの」
「そう考えるのも無理はないけど、ほかのやり方もあるんじゃないの」
といえば、単に「おまえ、それ違うだろ」
と言うよりは、断然うまく内的コントロールに働きかけるというわけです。